2008年7月31日木曜日

血管の話⑦

最後に心筋梗塞について書きたいと思います。20年以上急性心筋梗塞の患者さんを診てきましたが、この病気で亡くなる方は本当に少なくなりました。
でも、おそらく心筋梗塞になる人自体は増えていると思います。

循環器内科医ががんばったおかげだぞと胸をはりたいところですが、20年前の循環器内科医もがんばっていたはずで、そう考えると残念ながら末端の医者の努力はあまり関係ないのかもしれません。
まあソフト(治療法の確立)とハード(心臓の血管を再開通させるための管や風船、ステント、薬剤)がそろ って進歩したおかげだと思います。

先日、松山千春さんが不安定狭心症で緊急冠状動脈形成術を受けたそうです。
まあこれだけ漢字が連なると、普通の人は読む気をなくすと思いますので 言いかえますと、「心臓の血管が詰まりかけたので、大急ぎで血管を広げる 治療 を受けた」ということになります。

さきに書きましたが、心臓の血管が完全に 詰まってしまうと心筋梗塞になるわけですから、その一歩手前までいったということです。

どうも血管の配置、栄養の分配法、緊急時の対応などをみると人体は「一に脳みそ、二に心臓、三四がなくて五に呼吸」を大事にしているようです。
ただ脳と心臓では求められているものが違いまして、脳は瞬発力が必要ですぐにエネルギーになる糖で動き、心臓は持久力が持ち味で一分子で多くのエネルギーが得られる油によって動いています。100m走とマラソンの違いのようなものです。

小児が時折見せてくれる奇跡的な例外を除き、脳血流が遮断されると4-5分で脳死に至ります。

それに対し心筋の場合は、血流が遮断されても数時間はもちます。
ですから心筋梗塞をおこしても数時間(8時間程度:諸条件によりばらつきあり)以内に詰まった血管を広げられればダメージが少ないということになり、この数時間のことを「ゴールデンタイム」と呼んでいます。

おそらくこの時間は金(ゴールド)に相当する、時は金なりという意味とおもわれます。
まあ命はお金であがなえませんから「ライフタイム」とでも呼んだ方がいいかもしれません。

心筋梗塞は激痛ですからたいていの人は発症後すぐに来院されますが、なかには我慢する人もいます。

けれどもいくらタフな心筋も、時間が経てば徐々にダメージをうけますので、一刻を争って中核病院(市内では王子病院か市立病院)に行くべきです。
先に「狭い庭でもそれがかえって幸いなこともある」と書きましたが、日本のように狭いところに人口が密集しているのは、救急の場合は吉とでるようです。
山間部でもまあまず間に合いますので、あきらめずに急ぎましょう。

2008年7月26日土曜日

血管の話⑥

認知度の点ではそういうことで広まりましたからいいとして、問題は予防です。
ただその前に話がちょっと飛びますが、血液はどうやって循環しているかを 確認します。

動脈はまあ簡単です。心臓がぎゅっと縮んでその力で体の隅々まで血液が いきわたります。
じゃあ静脈はどうか。今度は逆に体の隅々から心臓にもどっていかなければ なりません。
心臓に駆出力だけでなく吸引力もあればいいのですが、残念 ながらそんな力はないので行きはよいよい帰りは怖いと、なんとか心臓の 力に頼らず帰り着く必要があります。
実際は、静脈血が心臓に戻るために3つの力が知られています。

① 重力:頭にある静脈の血液は重力によって自然と落ちていきます。逆立ちを するとこれがはたらかず、顔がぶわっとなります。

② 胸の(マイナスの)圧力:指の腹を針のない注射器の先端に当ててふさぎ、 注射器を引くと中が陰圧になり指が中に引っ張られます。指を当てないで 引くと当然、空気が入り込みます。同様に横隔膜(*註)が下がると胸の容積が 増えて陰圧になり中に(つまり肺に)空気が入り込みます。これが呼吸の
原理で、逆に横隔膜が上がると空気が出て行きます。
これに伴い血液も動きます。横隔膜が下がると血液が胸に(つまり心臓に) 入り込み、横隔膜が上がると血液は押し出されようとしますが、ここで 唯々諾々と押し流されては今までの苦労が水の泡でして、そうならないため に静脈には弁がここかしこに備わっており、血液の流れを「隅々→心臓」の
一方通行にしています。
ですから腕を振り回しても遠心力で指先に血が 集まってしまうことはありません。ただ血液が弁に押し付けられて停滞し、 ぶわっとなりますけれど。

③ 筋肉ポンプ:足にとって①は(立ってるときは)方向が逆ですし②は遠すぎて ほとんど影響がなく第三の力に頼るほかありません。
筋肉ポンプとは筋肉が血を流すポンプの役目をするという意味です。筋肉が しまると中を通っている静脈が圧迫されて血液が(弁があるため)上に少し 移動します。
次に筋肉が緩んでも弁がありますから下には落ちません。
そしてまた筋肉がしまると、さらに上に移動するといった具合です。
一日中同じ場所に立っていると足がむくみますが、同じく立っていても 歩き回っていればむくまないのは、このためです。

長々と書きましたが、筋肉ポンプのことを知っていれば、なぜエコノミークラスで足に血の塊が出来やすいか理解でき、そうであれば予防法も想像がつくという ものです。
筋肉を使わないことが一番の原因なのですから、まず足を動かすことが大事 です。
それから水分を多くとって血液の濃縮を防ぐということになります。
また、いわゆる「血液をさらさらにする薬」というのもありますから 持病を持っている方は、主治医に相談されるといいと思います。
しかし世間には 「血液をさらさらにするといってだます詐欺」もあるようですので、怪しげなものには注意が必要です。

註:横隔膜=胸とおなかの境にある可動性の膜。焼肉で言うところの「さがり」

2008年7月25日金曜日

血管の話⑤

養命酒、味の素、救心など各メーカーは中身がいいからだというかもしれませんが、ネーミングがすぐれているということは大きな要素(知名度にしても売り上げにしても)だと思います。
内科学会も最近ヒットを飛ばしまして、「メタボリック症候群」という言葉はすっかり定着してなじみになりました。同じような概念を示す言葉として「インスリン抵抗性症候群」「デス・カルテット」「内臓肥満症候群」などなどありますが、やっぱりこうやって比べてみると、「メタボリック」にしてよかったなあ(もちろん自分が決めたわけじゃないけど)とおもいます。略して「メタボ」というのもなんとなく覚えやすいのかもしれません。

一応内科学会会員ですがこれ以上ほめても何もくれそうにないので、話を元に戻して「エコノミークラス症候群」です。

病態としては、長時間同じ姿勢をとることによって足の静脈に血の塊ができ、それが歩いたりした弾みに流れに乗って肺に詰まって肺梗塞等をおこすものです。
別名「ロングフライト症候群」「旅行者血栓塞栓症」などともいいますが、やはりエコノミーと名づけたのがミソだったのじゃないかという気がします。
何の予備知識もなく「エコノミークラス」と「肺梗塞」を結びつけるのは不可能で、一種の謎解きになっています。で「エコノミー」→「狭い」→「足を動かしづらい」→「血流が停滞」→「血栓ができて肺につまる」という風が吹けば桶屋が儲かる式のたねあかしを聞くとなるほどと納得し記憶に残るという仕組みではないかと考えます。

まあ、ビジネスクラスやファーストクラスでもおこるから「旅行者血栓塞栓症」にしようとか、いや、飛行機の中が狭いからなるのであって長距離バスではおきないから「ロングフライト症候群」にしろ、など運輸業界を巻き込んで利害が絡み合い、議論が続いているようです。
あと、新潟の地震のとき余震で自宅が倒壊するのを恐れ、車の中で何日かじっとしていた住民の方に肺梗塞がおきたそうですから、場所はどこでも同じ姿勢を長時間保たざるを得ないときは注意が必要です。

2008年7月10日木曜日

血管の話④

次に梗塞の話です。血管を道路に例えてみます。
道路を通って食料などをいろいろな地域に運ぶように、血管を通って血液は酸素や糖分などをいろいろな組織に運びます。

明野の住宅街の道路が一本、何らかの事情で通れなくなると、町内の人は迷惑でしょうけれど、そのほかの地域の人に影響はほとんど無いと思います。
しかし高速道路や国道が閉鎖されると迂回路はたくさんあるものの物流量の低下は避けられないのではないでしょうか。

今回のサミット期間中、札幌に通学している息子は、30分家を早く出ざるを得ませんでした。
さらに樽前山登山道に行く一本道は登山道の駐車場で行き止まりですが、これが通れなくなると、少なくとも車両で樽前山に行くことは出来なくなります。
この行き止まりの一本道のことを血管では終末血管といいます。
で、終末血管が詰まると梗塞になるわけですが、脳梗塞はこのパターンが多く腎臓の血管が詰まる腎梗塞もこれです。
一方、大きな道路が通行不能になると迂回路だけでは物流を維持できず、物資の供給量は低下します

このパターンは心筋梗塞に多くみられます。
そして迂回路のことを側副血行路と言い、迂回路に回せる交通量が多いほど、つまり側副血行路が太いほど梗塞は軽症になります。

迂回路がたくさんあり、十分な交通量を維持できる場合、一本くらい道路が封鎖されても気づかないか、ちょっと不便だなくらいで済むこともあるでしょう。

足の血管はこのケースがあり、血管が詰まってもほとんど自覚症状が無かったり、足がつめたい、歩くと痛いけど我慢できる程度の症状しか出ないことがあります。
一応厳密に言えば、血が行かないことによって障害がでる状態が梗塞ですから足の場合は通常「足梗塞」とは言いません。

エコノミークラス症候群は肺の血管閉塞によっておこります。

ごく軽症のものから肺組織に障害が出て痛みや呼吸困難感が生じる肺梗塞まで、いろいろ重症度に幅があります。

2008年7月9日水曜日

血管の話③

話がそれました。
血圧にはmmHg(ミリメーター水銀)という単位を用います。

200mmHgです と水銀20cm分の圧力という意味です。
たいしたことないと思われるかもしれ ませんが水銀というのは割と重いもので、水圧に換算すると270cmH2O、 つまり噴水を2m70cm上げる力ということになります。
こんな力が頭の中に加えられたらと思うとぞっとします。
やはり血圧は下げておかねばなりません。

血圧を下げるには塩をひかえるのが肝要ですが、進行すると薬を飲むことになります。

よく患者さんに「血圧の薬って、一度飲むともうやめられなくなるんでしょ」なんて聞かれますが、まさか麻薬じゃあるまいし、そんなことはありません。

ただ、病気には急性の病気と慢性の病気があります。
急性の病気を治すには薬で治す、体力を信じて治るのを待つといった方法が あります。

前者はたとえば肺炎に対する抗生物質です。
後者はたとえば風邪に対する根性です。まあ根性といって悪ければ、体力をつける、あるいは温存するといってもよいかと思います。
暖かくして睡眠をとる、滋養のあるものを取る、にんにくを食べる、熱を下げるなどです。
次に慢性の病気を治すには・・・と続けたいところですが、治す方法がないから「慢性」なんです。開き直るしかありません。

高血圧は慢性の病気です。よって治す薬はありません。ですが「一時的」に血圧を下げる薬はあります。

ここで言う「一時的」というのは以前は数時間でしたが、現在では12時間以上が主流で24時間以上の薬もでています。
つまり1日1~2回薬を飲み続ければ血圧が下がった状態が続き、高血圧が治っているのと同じ効果が得られるのです。

ですから「血圧の薬は一回飲むとやめられなくなる」のではなく「すでに薬をやめられない血圧」になってしまっているということになります。

2008年7月7日月曜日

血管の話②

心筋梗塞とは心筋へ行く血管が塞(ふさ)がること、脳梗塞とは脳細胞へ行く血管が塞がることです。脳出血は脳へ行く血管の内圧(つまりは血圧)が高くなって血管が破れ出血すること、心筋出血は心筋に行く血管の内圧が・・・と続けたいところですが、ふつう心筋出血というものはありません。

血圧が140/85であれば、140のほうを上の血圧、85を下の血圧といいます。

心臓がぎゅっと縮んで血液をビュッと送り出す時の圧が145、心臓がだらんと緩んでいるときの圧が85で、血管の中の圧力はこの二つの値の間を行ったりきたりしているわけです。

なぜ心筋出血というのはないか、という話に戻りますけれど、心筋に行く血管(冠状動脈といいます)は個々の筋肉細胞に血液を届けるため、その中にもぐりこんでいます。

ですから心筋がぎゅっと縮んだとき、冠状動脈は外から締め付けられることになります。
つまり血管の中から外に向かう圧は140なのですが、それ以上の力が外から中にかかるため冠状動脈はつぶれてあまり血液が流れない。
結局心臓がだらんとしている、85あたりの圧しかかからないということになりますので、心筋出血という病気はめったにない(もちろん胸部外傷などの怪我は別として)ということになります。

で、脳血管。若く柔らかい血管でも上の血圧が300mmHgをこえると破れる可能性があるとされています

動脈硬化が進んで、硬くもろくなった血管ですと200mmHgでも危険性があります。
さきのルーズベルト大統領の場合、脳出血をおこしたときの血圧は300/190mmHgだったそうです。

圧力というとatm(気圧)、hPa(ヘクトパスカル)などを耳にしますが、なかなか実感としてわかりにくい力です。

そもそも普段から地上では1気圧の圧が常にかかっているんだと言われても何も感じないし、高気圧が来たからといって押しつぶされるわけじゃなく、低気圧だからって頭の重い感じが和らぐわけでありません。

むしろ精神的圧力のほうが、はるかに実感しやすいような気がします。

子供の運動会の親子リレーは結構責任重大で重圧ですからこれを1リレー・パスカルとし、奥さんに「大分、庭の草が伸びてきたねぇ。」と日常会話を装いながらその実、有無をいわせぬひびきで言われたとき(この時ほど庭が狭くてよかったと思うことはありません)は20リレー・パスカルに相当するとか、5リレー・パスカル以上の重圧を10日間以上うけると、胃がやられやすいなど計算できると便利なのですが・・・

2008年7月4日金曜日

血管の話①

アメリカ第32代大統領であったフランクリン・ルーズベルトといえば年配の方 はすぐわかると思いますが、第二次世界大戦中の大統領です。
つまり当時の 日本にとって敵国の頭領になります。
この人は1945年4月つまりは終戦の 4ヶ月前、ドイツ降伏の1ヶ月前に、高血圧が高じて脳出血で亡くなりました。
かなりやり手であった敵国のボスが亡くなったわけですから、日独にとって 少なくとも好ましい事態であったはずで、実際ヒットラーは喜んでそれを隠さ なかったのに、日本は(内心はともかく)哀悼の意をアメリカに向け表した
そうです。
生前いかに憎たらしい人間でも、亡くなったら死者に鞭打たずという考え方が 日本には根強いのだろうとおもいます。

もう一つ古い話ですが(古い話を思い出すと止まらないのは、年のせいで しょうか)昭和55年大平総理大臣が内閣不信任案可決をうけ解散総選挙に 打って出ましたが、選挙期間中に突然心筋梗塞で亡くなりました。
当時自民党は内部分裂をおこし支持率もかなり低く、選挙は惨敗が予想されて いましたが、大平さんが亡くなると政権批判はしずまり、選挙は与党が 圧倒的に勝ちました。

まあ、日本人の心情なんていう形而上学的話題は 苦手なのでこのくらいにして、二人のトップが亡くなった血管の病気の話を します。

大統領が高血圧と脳卒中、首相が心筋梗塞でした。

脳卒中というのは読んで字のごとく脳のせいで中(あた)って卒倒するということで、脳出血のほかに脳梗塞などがあります。
脳梗塞に見舞われた有名人といえば、オシム監督、長島監督、西城秀樹さん、故田中角栄元首相など多数いらっしゃって頻度の多い疾患であることがうかがえます。